はじめに

デジタルヒューマニティーズの研究では、複数の資料を並べて比較検討することが頻繁に行われます。異なる写本を比較したり、修復前後の美術作品を並べて確認したりする場面では、高機能な画像ビューアが不可欠です。

本記事では、Stanford 大学と Harvard 大学が共同開発する IIIF 対応画像ビューア Mirador を紹介します。

Mirador とは

Mirador は、IIIF(International Image Interoperability Framework)に対応した Web ベースの画像ビューアです。最大の特徴は、複数のウィンドウを同時に開いて画像を比較できるマルチウィンドウインターフェースです。

Apache 2.0 ライセンスで公開されており、学術機関を中心に世界中で広く利用されています。現在のバージョンは Mirador 3 で、React をベースとしたモダンなアーキテクチャで構築されています。

主な機能

マルチウィンドウ比較

Mirador のコア機能であるマルチウィンドウ表示により、複数の IIIF マニフェストから画像を同時に並べて比較できます。ウィンドウは自由にリサイズ・配置でき、研究者のワークスペースとして機能します。

アノテーション機能

IIIF のアノテーション仕様に対応しており、画像上に注釈を付けることができます。研究メモやタグ付けを画像に直接関連付けられるため、協調的な研究作業に適しています。

プラグインエコシステム

Mirador 3 はプラグインアーキテクチャを採用しており、機能を拡張できます。代表的なプラグインには以下のようなものがあります。

  • mirador-image-tools — 画像の明るさ・コントラスト調整、反転、グレースケール変換
  • mirador-annotations — アノテーションの作成・編集
  • mirador-dl — 画像のダウンロード
  • mirador-share — 共有リンクの生成

レイヤー表示

複数のレイヤーを重ねて表示する機能を備えており、例えば原本画像の上に翻刻テキストを重ねたり、異なる波長で撮影した画像を切り替えたりできます。

ドラッグ&ドロップ

IIIF マニフェスト URL をドラッグ&ドロップでビューアに追加できます。異なる機関のコレクションから資料を集めて、一つのワークスペースで比較する作業が容易です。

導入方法

Mirador は npm パッケージとして提供されています。

npm install mirador

React アプリケーションに組み込む場合は、以下のように設定します。

import Mirador from 'mirador';

const config = {
  id: 'mirador-viewer',
  windows: [{
    manifestId: 'https://example.org/manifest.json'
  }]
};

Mirador.viewer(config);

DH における活用例

写本の比較研究

同じテキストの異なる写本を並べて表示し、文字の違いやレイアウトの差異を比較できます。中世ヨーロッパの写本研究や、日本の古典籍研究において効果的です。

美術作品の分析

美術作品の細部を高解像度でズームし、筆致や顔料の使い方を分析できます。画像処理プラグインを使えば、明るさやコントラストを調整して、肉眼では見えにくい詳細を確認することも可能です。

クロスコレクション比較

IIIF の相互運用性を活かし、異なる機関のコレクションから資料を持ち寄って比較できます。例えば、国立国会図書館と大英図書館が所蔵する同一作品の異なる版を並べて研究するといった使い方が可能です。

教育利用

授業で資料を提示する際に、Mirador のマルチウィンドウ機能を使って複数の資料を効果的に見せることができます。学生にアノテーション機能を使わせることで、能動的な学習も促進できます。

Universal Viewer との比較

Mirador は画像の比較分析に特化しており、マルチウィンドウやアノテーション、プラグインによる拡張性に優れています。一方、Universal Viewer は画像以外のメディア(音声、動画、3D)にも対応しています。

研究目的での画像比較には Mirador を、マルチメディアコンテンツの公開には Universal Viewer を選択するのが一般的です。

まとめ

Mirador は、IIIF 画像の比較・分析に最適なオープンソースビューアです。マルチウィンドウによる並列比較、アノテーション機能、豊富なプラグインエコシステムにより、DH 研究者にとって強力なツールとなっています。Apache 2.0 ライセンスで自由に利用でき、React ベースのモダンなアーキテクチャで拡張性にも優れています。