はじめに

地理空間データの可視化は、デジタルヒューマニティーズ(DH)の研究において重要な手法の一つです。歴史的な出来事の分布、文化遺産の所在地、人口動態の変遷など、空間的な情報を視覚的に表現することで、新たな知見を得ることができます。

本記事では、Uber が開発したオープンソースの地理空間データ可視化ツール Kepler.gl を紹介します。

Kepler.gl とは

Kepler.gl は、大規模な地理空間データセットを直感的かつ美しく可視化するために設計された Web ベースのツールです。2018 年に Uber のビジュアライゼーションチームによってオープンソースとして公開されました。MIT ライセンスで提供されており、誰でも自由に利用・改変が可能です。

WebGL を基盤とした描画エンジンにより、数百万ポイント規模のデータでもスムーズにレンダリングできる点が大きな特徴です。

主な機能

ヒートマップ

データポイントの密度を色の濃淡で表現するヒートマップは、大量のデータの分布傾向を把握するのに適しています。例えば、歴史的な文書の発行地をヒートマップで表示することで、文化活動の集中地域を一目で確認できます。

3D マップ

高さ方向を使ったデータ表現も可能です。地域ごとの数量データを 3D の柱として表示するヘキサゴンビンや、建物の高さを反映した 3D 地図を作成できます。

時系列アニメーション

タイムスタンプを持つデータをアニメーションとして再生できます。時間の経過に伴うデータの変化を動的に可視化することで、歴史的な事象の推移を直感的に理解できます。

多様なレイヤータイプ

ポイント、アーク(弧)、ライン、ポリゴンなど、多彩なレイヤータイプをサポートしています。移動経路や貿易ルートの可視化にはアークレイヤーが、地域区分の表示にはポリゴンレイヤーが適しています。

対応データ形式

Kepler.gl は以下のデータ形式に対応しています。

  • CSV — 緯度・経度カラムを含む表形式データ
  • GeoJSON — 地理空間データの標準フォーマット
  • JSON — カスタムデータ形式

ブラウザ上にファイルをドラッグ&ドロップするだけで読み込めるため、プログラミングの知識がなくても利用を開始できます。

DH における活用例

歴史地図の作成

古地図のデータや歴史的イベントの発生地点をプロットし、時系列アニメーションで変遷を追うことができます。例えば、江戸時代の宿場町の分布や、近代化の過程での鉄道路線の拡大を可視化できます。

文化遺産のマッピング

博物館・図書館・文書館のコレクションに含まれる地理情報を可視化し、文化遺産の空間的な分布を分析できます。IIIF マニフェストに含まれるメタデータから座標を抽出し、Kepler.gl で表示するといったワークフローも考えられます。

テキストマイニングとの連携

テキストから抽出された地名を座標に変換(ジオコーディング)し、Kepler.gl で可視化することで、文学作品や歴史文書に登場する地名の空間的な関係を分析できます。

導入方法

Kepler.gl はブラウザ上で直接利用できる Web アプリ版(kepler.gl)が提供されています。データのアップロードから可視化、設定の保存までをブラウザ内で完結できます。

より高度な利用には、React コンポーネントとして自身のアプリケーションに組み込むことも可能です。npm パッケージとして提供されており、Jupyter Notebook 用のプラグインも存在します。

npm install kepler.gl

まとめ

Kepler.gl は、大規模な地理空間データを直感的に可視化できるパワフルなツールです。プログラミングの知識がなくてもブラウザ上で利用でき、CSV や GeoJSON を読み込むだけで美しいマップを作成できます。DH 研究における空間分析の入口として、ぜひ活用してみてください。